子どもは「関係性」の中で育つ|『ADHDの正体』後編

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愛着とは何か、愛着障害とは何か

愛着とは、乳幼児期に養育者との間で育まれる「安心感の土台」のようなものです。

愛着が不安定な状態が続くと、発達障害と似た症状が現れることがあります。ただし、愛着障害とADHDを明確に区別することは難しく、虐待などで子どもが保護されるといった深刻なケースでない限り、愛着障害として診断されることはあまりないのが現状です。

つまり、愛着の問題がADHDとして診断されている可能性がある、というのが岡田先生の問題提起の核心にあります。

愛着スタイルとADHDの関連

愛着スタイルにはいくつかの種類があり、大きく「安定型」と「不安定型」に分けられます。不安定型の中でも、養育者に安心したい気持ちと恐怖が同時に向いてしまう「無秩序型(混乱型)」を示した子どもは、その後ADHD症状を示しやすい傾向が報告されています。

さらにスウェーデンの大規模調査では、親の死別・離婚・精神的不調・経済的困窮など、強いストレス体験が重なるほどADHDリスクが高まることも示されており、4つ重なるとリスクが5.5倍になるというデータもあります。このデータも、後天的な環境要因がADHDに深く関係しているのではないかという、岡田先生の問題提起の根拠の一つになっています。

「愛着が先、ADHD症状が後」という時系列

これまでの一般的な考え方は、「ADHDという特性があるから育てにくく、その結果として愛着が不安定になる」というものでした。

しかし岡田先生はここに時系列の矛盾を指摘しています。愛着の土台は1歳半までに形成され、虐待のピークは2〜4歳。一方でADHDの診断は4歳以降に可能になります。つまり「愛着の不安定さが先、ADHD症状が後」というケースがあるのではないかということです。

オキシトシンが教えてくれること

愛着形成は心理面だけでなく、脳やホルモンとも関係している可能性があります。

オキシトシンは「愛情ホルモン」とも呼ばれ、心を落ち着かせたり、人とのつながりの中で安心感を生み出したりする働きがあります。近年の研究では、ADHDの子どもは健常児に比べてオキシトシン濃度が低い傾向があることも報告されています。ただし、これが「原因」と断定されているわけではなく、関連が示唆されている段階です。

「安心できる関係性」が、脳の働きにも影響している可能性がある。愛着形成の大切さを、ホルモンの側面からも裏付けている話だと感じました。

自然な愛着形成をサポートする難しさ

愛着形成の大切さは、私も強く感じています。ただ、岡田先生は母と子が密に過ごす時間や、手間をかけることの大切さを強調されていますが、少し引っかかりを感じました。母子がずっと一緒にいればいいというわけではないと思うからです。

密室で二人きりの育児がどれだけ追い詰められるか。余裕のない状態で「手間をかけるほど愛着が育つ」と言われても、むしろ逆効果になることだってあります。責任感の強い母親ほど、真剣に読んで、真剣に落ち込む。それがちょっと心配でした。

私自身は実家も遠く夫も激務だったので、毎日子育て支援センターに通い続けていました。誰か大人がいて、「今日もまた来てくれたね」と声をかけてもらえるだけで、かなり救われていました。母親の目の届く範囲で、いろんな人と一緒に子どもを見られる。昔の地域の子育てに少し近い感覚がありました。

昔は母親が中心でも、家族や地域みんなで子どもを育てていました。今は、家庭で抱え込むか、長時間保育に頼るか、両極端になりやすい。親子がゆるやかにつながったまま社会で育てる形が減っている気がします。

親自身のケアこそが、連鎖を断ち切る

親が子育てで、感情的になりすぎてしまう背景には、親自身の過去の傷が関係していることが多いと岡田先生は指摘しています。自分が傷ついた経験が無意識のうちに子どもへの関わり方に影響し、それが次の世代へと引き継がれていくとのこと。

でも、親を責める支援は逆効果です。まず親自身が「自分も辛かったんだな」と過去を受け入れることで、心に余裕が生まれ、子どもへの関わり方が自然と変わっていきます。それが連鎖を断ち切る第一歩になる、という視点に、私はとても共感しました。

社会構造の変化が、愛着を揺るがしている

本書では、1980年代以降の母親の就職率の急増と、ADHDの診断数増加のタイムラグが時系列として一致していることが指摘されています。

岡田先生は、女性の社会進出に伴い、それを支える仕組みが伴わなかったことで、女性に負担を強いる結果になったと分析しています。そしてそのしわ寄せを最も受けたのは、子どもだったと。

ただし、時系列が一致しているからといって「母親の就労がADHDの原因」と証明されたわけではありません。あくまで社会の変化との関連を考える視点の一つです。

また、乳児期の長時間保育が無秩序型愛着のリスクを上げるという研究データも本書では紹介されています。どう育てるかは各家庭が決めることだと思っています。ただ、こういうデータがあることを知った上で選べること、保育園に預ける場合でも家での愛着形成をどう深めるか、そういう知識が広まってほしいと感じました。母親がみるべきという話ではなく、情報として届いてほしいのです。

さらに、仕事と育児の両立で極限まで疲弊した状態では、オキシトシンの働きも低下しやすいと考えられています。社会が母親の就労を急ぐ一方で、親子が安心して愛着を育てられる環境が置き去りになっていないか。日本社会の施策への問題提起のように、私は感じています。

伴走してくれる人が、必要

本書では、親の態度だけを問題にしてもうまくいかないのは、親自身もまたその親から同じような扱いを受け、未解決な心の傷を引きずっていることが多いためだと指摘されています。

親が自分自身を振り返り、客観視すること。それは容易ではないけれど、子どもの問題をきっかけに自分の問題に向き合い、真剣に取り組んだ親子は大きく変わっていくケースが非常に多いと岡田先生は言います。

でも、これは一人でできることなのかな、と私は思いました。自分の傷と向き合うには、伴走してくれる誰かが必要なのではないかと。

私は、この本は「母親がもっと頑張るべきだ」と訴える本というより、むしろ「親子が安心して愛着を育てられる社会になっているだろうか」と、社会全体へ問いを投げかける本なのだと感じました。

「個人の問題」だけではなく、「社会全体でどう支えるか」について感じたことは、また別の記事でゆっくり書きたいと思います。

番外編はこちら

※本書では、「大人のADHDの多くは後天的な”疑似ADHD”ではないか」という問題提起がされています。ただし現在の医学界では、後天的なADHD様状態が増えているという見方と、子ども時代に見過ごされていたADHDが大人になって顕在化したという見方の両方が議論されています。本記事では、その中の一つの視点として岡田先生の内容を整理しています。また、本書で紹介されている研究データ自体は世界的に信頼されているものですが、そのデータの解釈や結論には、著者である岡田先生の愛着理論に基づく独自の視点が色濃く反映されています。

※本記事は、書籍・一般的な知見・個人の体験をもとに、「子育て支援と愛着形成について感じたこと」をまとめたものです。発達や医療に関する判断は、個々の状況によって異なるため、必要に応じて専門機関へご相談ください。

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この記事を書いた人

ブログ「心音」の管理人、こはくです。看護師・保健師・養護教諭の資格を持ち、介護・対人支援の現場に10年以上携わってきました。自身もADHD傾向による生きづらさを感じてきた当事者です。
また、家族を見送る経験を通じて深く悲しみと向き合い、グリーフ専門士の資格を取得しました。
現場で出会ってきた方々の姿と、脳科学・心理学の学びを重ね合わせながら、自分とやさしく向き合うためのヒントを綴っています。

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