岡田尊司『ADHDの正体』を読んで|「診断」の前に、その人を見る

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はじめに

ADHDのことをもっと知りたくて手に取った一冊です。

しかし、本書のメインテーマは「疑似ADHD」という、現在の診断への問題提起でした。

そのため、ある程度ADHDの一般的な知識がある方のほうが、著者である岡田先生の意図を汲み取りやすくなり、「これは議論中の話なんだ」と受け取りやすいかもしれません。

大人のADHDの約9割は、子どもの頃はADHDではなかった

近年は年代を問わずADHDの診断数が増えており、一般的には「子どもの頃に見逃されていたものが、大人になって発見された」と解釈されることが多いです。しかし岡田先生はここに疑問を投げかけています。

その根拠として挙げられているのが、ニュージーランド・ブラジル・イギリスで行われた大規模な追跡調査。成人後にADHDと診断された人の約9割は、子どもの頃は診断基準を満たしていなかったというデータです。

子どもと大人では、男女比や症状の現れ方にも違いが見られます。岡田先生はこれを「子どものADHDと大人のADHDは別物である可能性」の証拠として挙げています。

ただしここで注意したいのは、「大人のADHDは存在しない」という話ではないということです。生来的な神経発達特性としてのADHDも確かに存在します。一方で、ストレス・愛着の不安定さ・トラウマ・社会適応疲労などによってADHD様の状態になる人も多いのでは、というのが岡田先生の問題提起です。

ただ、この話はとても繊細だとも感じました。「じゃあ今までの苦しさは何だったの?」と不安になる人もいると思うからです。岡田先生が伝えたいのは「偽物だ」ということではなく、「その人の背景を丁寧に見よう」ということだと、私は受け取りました。

ADHD診断の急増の背景にあるもの

1980年代以降、診断基準の変化や、社会的な認知の広がり、製薬会社のマーケティングなども重なり、ADHDと診断される人が急増したと、本書では書かれています。

驚くのは「早生まれ」の問題です。同学年の中で相対的に幼いというだけで、ADHDと診断されやすくなるという研究もあります。これは学校という環境が生んだ「相対的な未熟さ」を障害と見誤っている可能性を示しています。

遺伝子は「設計図」ではなく「スイッチ」だった?

ここが、私がこの本で一番希望を感じた部分です。

遺伝子(設計図)そのものは変わらなくても、「どこを読むか」というスイッチが、生まれた後の環境によって後天的に切り替わります。これが「エピジェネティクス」の仕組みです。

ラットの実験では、よく世話をされた子はストレスに強く穏やかに育ち、そうでない子はストレスに過敏になりました。そしてこの変化は可逆的、つまりやり直せる可能性があることも示されています。

「環境で傷つく」ということもありますが、「環境によって回復する可能性がある」という部分に、私は希望を感じました。

薬は万能ではない

一部の研究では、大人のADHDに対する薬の効果について、プラセボとの差が限定的という結果も報告されています。

ただし「ADHD薬は無意味」という話ではありません。ADHDの実行機能障害に対して薬で助かる人も多くいます。岡田先生が警鐘を鳴らしているのは「薬だけで解決しようとすること」であり、背景にある愛着や環境の問題を丁寧に見ることの必要性です。

人は「原因」が見つかると安心します。でも実際の人間は、脳だけでも、環境だけでも説明しきれない複雑さがあるのだと思います。その人の背景を丁寧に見ようとする岡田先生の姿勢に、私は深く共感しました。

後編では、本の後半で語られる愛着形成と社会構造の話を書こうと思います。

後編はこちら

※本書では、「大人のADHDの多くは後天的な”疑似ADHD”ではないか」という問題提起がされています。ただし現在の医学界では、後天的なADHD様状態が増えているという見方と、子ども時代に見過ごされていたADHDが大人になって顕在化したという見方の両方が議論されています。本記事では、その中の一つの視点として岡田先生の内容を整理しています。また、本書で紹介されている研究データ自体は世界的に信頼されているものですが、そのデータの解釈や結論には、著者である岡田先生の愛着理論に基づく独自の視点が色濃く反映されています。

※本記事の内容は個人の体験および一般的な知見をもとに執筆しています。医療・心理的な判断については、専門家へのご相談をおすすめします。

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この記事を書いた人

ブログ「心音」の管理人、こはくです。看護師・保健師・養護教諭の資格を持ち、介護・対人支援の現場に10年以上携わってきました。自身もADHD傾向による生きづらさを感じてきた当事者です。
また、家族を見送る経験を通じて深く悲しみと向き合い、グリーフ専門士の資格を取得しました。
現場で出会ってきた方々の姿と、脳科学・心理学の学びを重ね合わせながら、自分とやさしく向き合うためのヒントを綴っています。

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